(2)2003年1月11日 朝刊 1総合 001 00629文字

企業の社会的責任(天声人語
 企業人向けの講演会や勉強会にも、はやり廃りがある。このところ人気急上昇のテーマが、企業の社会的責任論である。海外では「CSR」 と呼ばれる▼主催は経済団体や非営利組織(NPO)、学会とさまざまだが、多くが満員の盛況ぶりだ。海外事情についての講演、法律や経営学の専門家による 分析、優良企業からの報告が定番で、会社から送り込まれた人々はひたすらメモを取る▼何やら難しそうだが、要は利益を出すだけでなく、法律を守り、環境や 地域社会にも目を配れる「きちんとした会社」になること。大企業でも不正が次々と明るみに出ている。ここで足元を見つめなおすのは悪くないが、殊勝な動機 ばかりではなさそうだ▼企業を見る目が厳しさを増しているのは海外も同じ。ルール破りは相手にされなくなり、株価も落ち込む。ひいては国の競争力にも影響 が出る。そう気付いた欧州の国々は、個々の会社に環境保護や法令順守の報告書を公表させるといった手立てで経営の規律を迫っている。英国は担当大臣まで置 いた▼社会的責任についての国際標準、つまり物差しづくりの動きはあるし、優れた企業だけを対象にした新手の投資信託も力をつけてきた。国内での関心の高 まりの背後には、この波に乗り遅れることへの恐怖心も見え隠れする▼とはいえ、法律や環境基準を守り、働きやすい職場をつくるなどは当たり前のこと。この 精神をうたった社是や社訓をもつ会社は少なくない。「何を今さら」と自信を持って言い返せる社長が、もっといても悪くないのだが。