(6)2004年11月4日 夕刊 文化 013 00769文字

末永國紀さん 近江商人の精神に学べ(テーブルトーク) 【大阪】
 同志社大教授<61歳>
 
 「顧客満足(CS)」「企業の社会的責任(CSR)」――。最近、耳にすることの多くなった言葉だ。企業の活動や商品、サービスなどがお客さんに喜ばれ、社会に役立っているかが厳しく問われている。
 「近江商人は今から250年も前に、今で言うCSやCSRの大切さを説いていますよ」。近江商人の精神に今こそ学ばねばならないと、新刊『近江商人学入門』(サンライズ出版)で提唱している。
  笠をかぶり、合羽(かっぱ)をはおり、天秤棒(てんびんぼう)を担いで全国を行商した近江商人。その起源は鎌倉時代にさかのぼるという。彼らは、丸紅や伊 藤忠商事などの総合商社、日本生命、「ふとんの西川」で有名な西川産業など数多くの企業を創設してきた。その経営理念を象徴するのが、売り手よし、買い手 よし、世間よしの「三方よし」。江戸時代にできたという。
 「商売は自分の利益だけでなく、取引先や社会全体を絶えず配慮して初めて成功する。この近江商人の考えは現代のCSRやCSにつながる普遍性を持っています」
 なぜ今、「三方よし」が大切なのか。
 その背景に、企業の不祥事の続発、他文化を無視した無神経なグローバリズムなどが目立ってきていることを指摘する。
  「近江から他国へ、そして外国へ出て広域的に活動した近江商人は、社会や他文化との関係を尊重し、自分たちの利益には驚くほどストイックでした。凶作や飢 饉(ききん)の時には米を施したり、働き口を提供したり、社会貢献に努め、人々の信用を得ました。商いには社会認識が重要なことを近江商人は強調していま す」
 佐賀県出身。滋賀県湖東町にある近江商人郷土館の館長も務めている。
 日本酒が好きで、ゼミのコンパではほろ酔い気分になると、若き日の恋の話もしてくれると学生からは好評だ。(大村治郎)
 
 【写真説明】
 京都市上京区