(3)2003年11月11日 夕刊 1総合 001 00884文字

「社会的責任」前面に 企業、変わる環境報告書 残業時間公表も
 企業が環境保全への取り組みなどを独自に公開する環境報告書が、様変わりしている。不祥事の対応を間違えば破綻(はたん)につながる時代とあって、環境対策に加え、法令順守や顧客への対応などの情報を盛り込む企業が急増しているからだ。「企業の社会的責任(CSR)」を前面に、社会や企業の将来を見据えて「持続可能性報告書」と名づける例も多い。「環境」から「社会・環境」へ。流れができつつある。
 
 環境報告書は90年代から欧米の一部企業から発行が広がった。企業にもよるが、株主や顧客に配布するほか、インターネットでも公表し、環境問題への取り組みをアピールしている。環境省によると、02年度の環境報告書発行は上場企業を中心に650社。うち187社がCSRに言及した。
 CSRを意識した動きは日本では02年ごろから目立ってきた。雪印食品が牛肉偽装事件の発覚で解散に追い込まれたことなどから、企業間で危機感が募ったようだ。担当者らは「企業姿勢への消費者の視線が厳しくなった」と口をそろえる。
 NGO(非政府組織)「環境監査研究会」の後藤敏彦代表幹事は「やがては企業の事業活動と社会性を両立させる経営モデルをつくりあげた企業が生き残り、それができない企業は淘汰(とうた)される」と見ている。
 ソニーはかつての環境報告書を今年「CSRリポート」と改めた。冒頭は取締役会の社内監督機能を強める「コーポレートガバナンス企業統治)改革」を紹介。それから雇用、人権分野などの対応を説明し、環境対策はその後に続く構成だ。
  大和証券グループは昨年10月、企業倫理など社会性を前面に出した「持続可能性報告書」を発刊した。ところが、翌11月にグループ企業でインサイダー取引 が発覚。今年度版では「二度とこのような事件を起こさない企業文化を育成する」とうたい、インサイダー事件も含めた計3件の不祥事をあえて公表した。
 INAXの今年度版は、日本企業がこれまであまり公にしてこなかった社員の残業時間や有給休暇の取得日数を載せ、工場閉鎖にも触れた。「どんな企業か、きちんと伝えることが信頼につながる」と担当者は話す。