(企業の社会的責任で初)1985年3月11日 朝刊 T経 008 00530文字

文化戦略(経営労働用語ABC)
 企業が文化的な活動を通じて企業イメージを高め、消費者などとのコミュニケーションを深めようとする動きが盛んになっている。消費者とともに生活文化を創造することによって、企業の存在価値を大きくしようとする戦略で、「企業の文化戦略」といわれる。
 文化活動が企業戦略の一つとして意識されるようになってきた背景として、企業の社会的責任の対象が、従来の商品にとどまらず、企業活動全般にも及んできたことが指摘されている。激化する企業間競争は、商品の質の面だけでなく、消費者に対して企業イメージを浸透させる、ソフトな戦略の重要性を高めている、ともいえよう。
  企業の文化戦略への取り組み方はまちまちだ。セミナーやシンポジウムなどの催し、美術館など文化施設の建設、財団活動、出版・映像活動、緑化運動や交通事 故防止などの社会的キャンペーン……。スポーツの催しを宣伝・販売促進活動と結びつけている企業が目立ってきたが、地域社会への利益の還元として会社のス ポーツ施設などを住民に開放している企業もある。
 十七日から「科学万博−つくば85」が始まる。ニューメディア、ロボットなど先端技術の成果が企業の文化戦略の中に取り入れられるようになっており、今年は科学をテーマにした催しも増えそうだ。

(7)2004年9月8日 朝刊 3経済 010 00986文字

「企業の責任」国際規格化 日本の産業界も参加へ
 国際標準化機構(ISO、本部・ジュネーブ)がCSR(企業の社会的責任)=キーワード=の国際規格をつくることになった。これまで「欧米の価値観を押しつけられる」と消極的だった日本経団連など日本の産業界も、自分たちの意向を規格作りに反映させたほうが得策と判断、姿勢を転じている。
 
 CSR規格は、「雇用で男女差別していないか」「児童労働にかかわっていないか」「地域の環境を汚染していないか」といった基準を設け、この基準を満たした企業にこの規格を与えてCSRを満たしている、とお墨付きを与える制度。
 今後の議論では、何を基準とするのか決めるほか、企業の申請に対し、ISOがどうチェックするのか、といった点も詰める予定だ。秋から論議を本格化させる。
  ISOは6月下旬ストックホルムで開かれた会合でこの規格作りを決めた。ISOはもともとは、工業品部品の規格を統一することで製品の国際流通を促進して きた組織だ。その後、品質管理や環境問題の規格化にも乗り出し、「マネジメント規格」も導入。ISO9000やISO14000といったものに結実してい る。
 ISOに先立ち、アナン国連事務総長の呼びかけで、企業の社会的責任について経営者が国連に直接約束する「グローバル・コンパクト」が00年から発足している。人権侵害の防止や環境保護、贈賄などの腐敗防止など10項目の順守を企業に求める内容。
 ISOのCSR規格も、そうした流れに沿うもので、欧米のNGO(非政府組織)などが「企業のもうけ方」を問題にするようになっていることも背景をなしている。
 日本経団連の関連団体である海外事業活動関連協議会は「規格づくりに日本が参画しなければ、欧米の価値観にもとづく規格になりかねない」(深田静夫企画部会長)と話す。また、麗沢大学の梅田徹教授は「CSRはいまや国際基準になっている。ビジネスの国際展開や外国人株主の増加につれ、日本企業は正面から取り組む時にきている」と語る。
 
 ◇キーワード
 <CSR>  Corporate Social Responsibilityの頭文字。企業の社会的責任。法令を順守することに加えて、適正な労働条件、人権保 護、環境保全など、企業が従業員や地域社会、一般消費者に対して果たすべき責任を指す。「よき企業市民」であることが求められるようになって、CSRに対する関心も高まっている。

(6)2004年11月4日 夕刊 文化 013 00769文字

末永國紀さん 近江商人の精神に学べ(テーブルトーク) 【大阪】
 同志社大教授<61歳>
 
 「顧客満足(CS)」「企業の社会的責任(CSR)」――。最近、耳にすることの多くなった言葉だ。企業の活動や商品、サービスなどがお客さんに喜ばれ、社会に役立っているかが厳しく問われている。
 「近江商人は今から250年も前に、今で言うCSやCSRの大切さを説いていますよ」。近江商人の精神に今こそ学ばねばならないと、新刊『近江商人学入門』(サンライズ出版)で提唱している。
  笠をかぶり、合羽(かっぱ)をはおり、天秤棒(てんびんぼう)を担いで全国を行商した近江商人。その起源は鎌倉時代にさかのぼるという。彼らは、丸紅や伊 藤忠商事などの総合商社、日本生命、「ふとんの西川」で有名な西川産業など数多くの企業を創設してきた。その経営理念を象徴するのが、売り手よし、買い手 よし、世間よしの「三方よし」。江戸時代にできたという。
 「商売は自分の利益だけでなく、取引先や社会全体を絶えず配慮して初めて成功する。この近江商人の考えは現代のCSRやCSにつながる普遍性を持っています」
 なぜ今、「三方よし」が大切なのか。
 その背景に、企業の不祥事の続発、他文化を無視した無神経なグローバリズムなどが目立ってきていることを指摘する。
  「近江から他国へ、そして外国へ出て広域的に活動した近江商人は、社会や他文化との関係を尊重し、自分たちの利益には驚くほどストイックでした。凶作や飢 饉(ききん)の時には米を施したり、働き口を提供したり、社会貢献に努め、人々の信用を得ました。商いには社会認識が重要なことを近江商人は強調していま す」
 佐賀県出身。滋賀県湖東町にある近江商人郷土館の館長も務めている。
 日本酒が好きで、ゼミのコンパではほろ酔い気分になると、若き日の恋の話もしてくれると学生からは好評だ。(大村治郎)
 
 【写真説明】
 京都市上京区

(5)2004年1月4日 朝刊 3総合 003 01687文字

企業に調査票ラッシュ 「社会的責任」投資のカギ
 製品に有害物質は含まれていないか、障害者の雇用率は――。このような「企業の社会的責任」(CSR) に関する調査票が内外の企業や調査機関から国内企業に殺到し、担当者が対応に追われている。財務内容だけでなく、環境保護への取り組みや従業員の待遇など も、投資や取引の判断材料にしようとの考え方が欧米で広がっており、その波が日本にも押し寄せてきた。一緒に上陸した「クエスチョネア・ファティーグ」 (質問票疲れ)という言葉も、担当者の間でささやかれている。
 
 調査票で多いのが、電気製品業界の化学物質調査だ。電子部品メーカーの TDK(本社・東京)には取引先の家電メーカー各社から月に800件もの調査票が届く。部品の成分測定データを添えた回答を求めてくる。2年前には月10 件ほどだった。アルプス電気(本社・東京)にも、この2年ほどで家電メーカーからの調査依頼が増え、月200件、部品点数で2千点もの調査に追われてい る。
 きっかけは、01年にオランダでソニー・コンピュータエンタテインメントの家庭用ゲーム機から基準を超える有害物質のカドミウムが検出され た事件だ。130万台の出荷停止とカドミウムが含まれていた部品の交換に追い込まれ、同社は損害を受けた。欧州では化学物質の規制強化が急で、自社製品に 使われている部品や素材の成分まで詳細に確認しておかないとリスクにさらされる。日本企業は衝撃を受けた。
 ソニー(本社・東京)は化学物質の自 社基準を設け、部品取引先との契約条件にする「グリーンパートナー制度」を昨年4月に導入した。大手家電各社も続き、独自に部品メーカーに調査を依頼し始 めた。部品メーカーも素材成分まで把握し切れないため、素材メーカーに調査票を送る。「調査票が業界内を飛び交う状態」(部品メーカー担当者)という。
 06年から欧州連合が、鉛など6物質について電気製品への使用を禁止する「特定有害物質の使用制限令」(RoHS指令)を施行することも拍車をかけている。
 
 ○格付け機関も膨大設問
 回答に手間がかかる調査も増えつつある。
 「女性取締役の数」「係争中の訴訟数」「障害者雇用率」「取引先への平均支払い遅延日数」「ミャンマー北朝鮮など非民主国家で事業をしているか」「世界人権宣言の支持表明をしているか」――10〜20ページ、設問数70〜80とCSR全般について回答を求めてくる調査票だ。
 送り主は、CSR優 良企業に投資する「社会的責任投資」(SRI)についての情報を提供する欧米の調査機関や格付け機関、環境配慮企業を投資先に選ぶ国内の投資信託・エコ ファンドの委託調査機関などだ。それぞれ日本のトップ500社程度に質問票を送る。大手企業には軒並み年10〜30件のアンケートが届いている。
 CSR調査の質問は人事、法務、海外現地法人など社内の多部門にわたり、回答をそれぞれの部門に発注しなければならない。一方、経営理念にかかわる質問には現場では即答できない。
 「社内で取材の手が回らない」(製薬)、「質問の狙いがそれぞれ微妙に違うため、模範回答が作れず、効率化できない」(銀行)といった声が上がっている。「ただ、一つの不祥事で企業が突然死する時代。CSRに取り組むことは避けられない」(家電)との声も強い。
  SRIのコンサルタント会社、グッドバンカーの筑紫みずえ社長は「欧米の投資家は、日本が近く大きなSRI市場になると見込んでいる。企業調査はさらに活 発になるだろう。最も危険なのは粉飾回答。自社の年次報告書やホームページで先手を打って情報発信すれば、負担は少ないはず」と話している。
 
 ◇キーワード
 <CSR>  Corporate Social Responsibilityの略。企業が社会の一員として持続可能な社会の実現のために果たすべき責任。企業は、 株主や消費者だけでなく、従業員、金融機関、取引先、地域社会、環境などとかかわり、それぞれに対して情報開示、説明責任を果たすことが求められる。個人 や機関投資家CSRを考慮して行う投資が社会的責任投資(SRI)。欧米で90年代に急成長した。

(4)2003年11月16日 朝刊 1経済 007 00456文字

温室効果ガス排出増減を金額換算 環境税見据え、企業で導入広がる
 温室効果ガス排出の増減を数量から分かりやすい金額に置き換えて公表する企業が出始めている。排出権取引制度や環境税の導入が日本でも検討されるなど、 将来には二酸化炭素(CO2)を始めとする温室効果ガスの排出増が、費用増につながる可能性が出てきたことが背景にある。もっとも、「情報開示で投資家の 信頼度は上がる」(ソニー)といった声は今のところ少数派で、効果の試算根拠もばらばらだ。
 各企業とも財務への直接的な影響としてではなく、「環境への負荷軽減による推定的効果」などと表現している。
 ソニーは7月に公表したCSR(企業の社会的責任)リポートで、02年度に工場や自社製品からのCO2排出が前年度比で約46万トン増えたと推計。効果はマイナス3億2400万円とした。
 田辺製薬は、02年度の排出量が前年度より2100トン増え、効果はマイナス86万1千円と初めて公表した。
 財団法人の地球環境戦略研究機関が昨年度、東証1部に上場する280社の環境報告書を調べたところ13社が金額換算しており、今年度はさらに増えたとみられる。

(3)2003年11月11日 夕刊 1総合 001 00884文字

「社会的責任」前面に 企業、変わる環境報告書 残業時間公表も
 企業が環境保全への取り組みなどを独自に公開する環境報告書が、様変わりしている。不祥事の対応を間違えば破綻(はたん)につながる時代とあって、環境対策に加え、法令順守や顧客への対応などの情報を盛り込む企業が急増しているからだ。「企業の社会的責任(CSR)」を前面に、社会や企業の将来を見据えて「持続可能性報告書」と名づける例も多い。「環境」から「社会・環境」へ。流れができつつある。
 
 環境報告書は90年代から欧米の一部企業から発行が広がった。企業にもよるが、株主や顧客に配布するほか、インターネットでも公表し、環境問題への取り組みをアピールしている。環境省によると、02年度の環境報告書発行は上場企業を中心に650社。うち187社がCSRに言及した。
 CSRを意識した動きは日本では02年ごろから目立ってきた。雪印食品が牛肉偽装事件の発覚で解散に追い込まれたことなどから、企業間で危機感が募ったようだ。担当者らは「企業姿勢への消費者の視線が厳しくなった」と口をそろえる。
 NGO(非政府組織)「環境監査研究会」の後藤敏彦代表幹事は「やがては企業の事業活動と社会性を両立させる経営モデルをつくりあげた企業が生き残り、それができない企業は淘汰(とうた)される」と見ている。
 ソニーはかつての環境報告書を今年「CSRリポート」と改めた。冒頭は取締役会の社内監督機能を強める「コーポレートガバナンス企業統治)改革」を紹介。それから雇用、人権分野などの対応を説明し、環境対策はその後に続く構成だ。
  大和証券グループは昨年10月、企業倫理など社会性を前面に出した「持続可能性報告書」を発刊した。ところが、翌11月にグループ企業でインサイダー取引 が発覚。今年度版では「二度とこのような事件を起こさない企業文化を育成する」とうたい、インサイダー事件も含めた計3件の不祥事をあえて公表した。
 INAXの今年度版は、日本企業がこれまであまり公にしてこなかった社員の残業時間や有給休暇の取得日数を載せ、工場閉鎖にも触れた。「どんな企業か、きちんと伝えることが信頼につながる」と担当者は話す。

(2)2003年1月11日 朝刊 1総合 001 00629文字

企業の社会的責任(天声人語
 企業人向けの講演会や勉強会にも、はやり廃りがある。このところ人気急上昇のテーマが、企業の社会的責任論である。海外では「CSR」 と呼ばれる▼主催は経済団体や非営利組織(NPO)、学会とさまざまだが、多くが満員の盛況ぶりだ。海外事情についての講演、法律や経営学の専門家による 分析、優良企業からの報告が定番で、会社から送り込まれた人々はひたすらメモを取る▼何やら難しそうだが、要は利益を出すだけでなく、法律を守り、環境や 地域社会にも目を配れる「きちんとした会社」になること。大企業でも不正が次々と明るみに出ている。ここで足元を見つめなおすのは悪くないが、殊勝な動機 ばかりではなさそうだ▼企業を見る目が厳しさを増しているのは海外も同じ。ルール破りは相手にされなくなり、株価も落ち込む。ひいては国の競争力にも影響 が出る。そう気付いた欧州の国々は、個々の会社に環境保護や法令順守の報告書を公表させるといった手立てで経営の規律を迫っている。英国は担当大臣まで置 いた▼社会的責任についての国際標準、つまり物差しづくりの動きはあるし、優れた企業だけを対象にした新手の投資信託も力をつけてきた。国内での関心の高 まりの背後には、この波に乗り遅れることへの恐怖心も見え隠れする▼とはいえ、法律や環境基準を守り、働きやすい職場をつくるなどは当たり前のこと。この 精神をうたった社是や社訓をもつ会社は少なくない。「何を今さら」と自信を持って言い返せる社長が、もっといても悪くないのだが。