産經新聞2005年5月6日夕刊 空堀の魅力本にしたい

戦前からの古い街並みが残る大阪市中央区空堀地区。どこか懐かしい雰囲気を持ち、近年注目を集めているこの街について紹介する本を、ユニークな手法で作る計画が進んでいる。月に一度、空堀に関わる人たちが集まり、わいわいがやがやと街についておしゃべりし、そこで飛び出た話題を活字にしていこうという試み。さまざまな目線から、街の歴史や魅了を掘り起こし、形に残そうとしている。

本作りの計画は、空堀の交流スペース「にぎわい堂」代表で大阪市の外郭団体職員の寺西章江さん(四一)と、大阪に詳しいライターの本渡章さん(五一)との出会いから始まった。
寺西さんは空堀住人歴四年。商店街での買い物を通して、コミュニケーションが残る空堀の温かさを知った。一昨年、人と人との出会いをもっと増やしたいと、古い町家を改装した「にぎわい堂」をオープン。商店街の人たちの協力を得ながら運営している。
一方、本渡さんは以前、近くに事務所を構えていた事もあり、空堀は何度も歩いた事のある土地。「細い路地や坂道があったり、小さな旅をしているような場所」という。雑誌の取材で知り合った寺西さんから、「にぎわい堂で何かしてみませんか」と誘われ、空堀の魅力を紹介する本づくりを提案した。
先月、にぎわい堂で開かれた第一回「空堀のワークショップ」には、寺西さんが四年間で築いた人脈で、街にかかわるさまざまな人が集まった。商店街の布団屋さんやお茶屋さん、Webデザイナー、アーティスト、教師など、二十代から七十代の十七人。同じ商店街で商いをしていても話をしたのは初めてという人もいて、最初はぎこちなくあいさつしていたが、それぞれの思い出話が始まると、「ああ、そうそう」と相づちを打ったり、「それは違う」と突っ込んだり。
「今はなくなった公設市場は、シャンデリアとかあって立派やったねえ」「あそこにはまだ珍しかったエスカレーターがあって、よう遊んだわ」なんて話から、同級生の消息や商店街の活性化策、昔のにぎわいなど、まとまりがないようで、けれどすべて空堀にかかわる話が繰り広げられた。
このおしゃべりをもとに、本渡さんが追加取材などし、文章にまとめてゆく。「今回は地元出身の人が多かったので、”空堀の自画像”のようなものがみえてきた」と本渡さん。今後は、古い町並みにひかれて集まってきた和解ショップオーナーや、町家の改装を手がける建築家、新しいマンションの住民らも、本作りの”わいわいがやがや”に巻き込んでゆくつもり、という。
空堀は一つの色では表せないいろんな面を持っていて、見る人によって変わる街です。この街を一人の筆者の視点で紹介しても意味がない。たくさんの人にかかわってもらうことで、全部の魅力を見せたい」と本渡さんは話す。寺西さんも「このワークショップを通じて、近くに住みながら出会うことのなかった人同士を結ぶことができれば」と期待していた。