7/22/06日経新聞 パロマと松下
電子・電機
パロマ事故、昨年の松下電器・温風機事故と比較――製品回収。
松下は二〇〇六年三月期連結決算で温風機事故による対策費用二百四十九億円を計上した。回収にあたった社員は延べ二十万人。十二月以降、テレビCMは一万八千二百本を差し替えた。十二月の第一週は全社の売上高が前年同期に比べ一二%も減少したが、その後の販売機会の損失は最小限にとどまったもよう。全社挙げての回収活動も手伝い不買運動も起きなかった。
同社のケースでは、当初は回収、修理業務は担当の白物家電部門が受け持っていた。中村邦夫社長(当時)を本部長とする緊急対策本部を設置したのは十一月末で、経営改革で効果を発揮した権限委譲が裏目に出たとの指摘もある。対象機種の回収台数は現時点で十万二千五百台となり回収率は六七・四%まで上昇したが、同社は全量回収を進める方針だ。
パロマは点検、回収を始めたばかり。今後被害者や遺族への補償や、東京ガスや東邦ガスなど販売で関係する都市ガス各社が行う点検費用の負担なども問題となってくる。ただ最も必要なのは新たな事故が発生することのないよう迅速に利用者を把握することだ。
リスクコンサルタント会社、日本アルマックの浦嶋繁樹社長は「実行可能なすべての手段を使って、問題となっている湯沸かし器の利用者を探す必要がある。ユーザーからの連絡窓口を繰り返し公表するのは当然だが、再発防止に向けた詳細な行動計画を発表して一般の関心を呼び起こすことも重要」と指摘。そのうえで「世間からの信頼回復に向け行動計画の実行状況を自発的に開示すべきだ」としている。
[7月22日/日本経済新聞 朝刊]
パロマ(名古屋市)が販売した瞬間ガス湯沸かし器で一酸化炭素(CO)中毒事故が発生した問題は、時間の経過とともに過去の他の事故も表面化するなど広がりを見せている。二十一日に同社は愛知県清須市にある研修所で対象機種を使いデータ取得のため燃焼実験を実施したが、十四日の事故公表から数日のうちに事故原因の説明が変わるなど初動での問題点も多い。昨年、石油温風機で死亡事故が発生した松下電器産業のケースと比べると、危機管理でのポイントが見えてくる。
パロマが小林弘明社長をトップとする緊急対策本部を設置したのは十一日。経済産業省から同社が販売した瞬間湯沸かし器で一酸化炭素(CO)中毒事故が十七件起きていることを伝えられた日だった。事故原因の究明のための調査委員会も設け、内々に事故実態の調査を始めた。
しかし情報管理や文書の保管が不備だったことから関連する情報の把握が遅れ、肝心の事故原因の説明は迷走した。小林社長は、十四日に開いた記者会見で「製品に問題はない。原因は安全装置の不正改造だ」と強弁。「一日も早く正しい器具を使っていただきたい」とまで言い切った。
しかしその後の十八日には一転して経年劣化など自社製品に責任があることも認め、「当社の機器で発生した事故であるにもかかわらず、その情報が十分に把握・管理できなかった」とうなだれた。
十四日の記者会見は十分な情報が集まっていないにもかかわらず急きょ開いたもの。四日後の発言撤回は、関係者に強い不信感を与える材料になった。
一方、石油温風機事故により昨年、一酸化炭素中毒で二人の死者を含む五人の被害者を出した松下の場合、最初の死亡事故を把握したのは一月だったが公表したのは三件目の被害者が出た四月だった。松下は公表が遅れた理由を「事故と温風機の因果関係が特定できていなかったため」と説明したが、一方で公表が遅れたこと自体について「判断が甘かったと言われれば肯定せざるを得ない」と述べた。
事故発生からの経緯比較
項 目
石油温風機 事故対象機器 ガス瞬間湯沸かし器
ホースの亀裂からの空気漏れによる不完全燃焼 事故原因 ○不正改造による排気ファンの作動不良
◎不正改造と製品の劣化
2005年1月 死亡事故発生時期 1985年1月
2005年11月に再発 2005年まで断続的に発生
2005年1月 事故把握時期 ○1991年
◎1985年
2005年4月 公表時期 2006年7月
15万2000台 出荷台数 26万台
部品の無償交換・修理(05年4月時点) 対 策 ○点検・回収
1台5万円で買い取り(05年12月時点) ◎新型と無償交換か定価の半額で買い取り
(注)○は14日時点、◎は18日時点の会社説明
【図・写真】パロマの緊急コールセンターには問い合わせが殺到し、全社で2万件を超えた(名古屋市瑞穂区)