メセナの意義

松下政経塾月例レポート1999年7月島川崇氏による記事の引用。メセナの意義の見解が書かれている。

主に以下3点が参考に。とくに2点目は「なぜ企業が社会的な貢献活動をするのか」の点で発表の際も活かせそう。
・バブル期→崩壊後のメセナの傾向
・ヴァージングループのリチャード・ブランソン会長による
 お客様への還元→社員への還元→社会(株主)への還元
・<メセナの分類byABSA>
 見返りを期待しないDonation(寄付)
 営利性が稀薄なPatronage(後援)
 マーケティング性の強いSponsorship(協賛)

http://www.mskj.or.jp/getsurei/shimakawa9907.html
バブル全盛期を振り返ってみると、各企業とも財政事情に余裕があったため、社会貢献としての企業メセナも積極的に行われていた。また、広告代理店主導でイメージ先行の企業協賛も花盛りだった。日本でも企業メセナ協議会が1990年に発足し、ますます企業メセナフィランソロピーは企業の果たすべき義務のように扱われ始めた。

 しかし、バブル崩壊後、各企業とも台所事情が悪化し、組織、および社員のリストラを積極的に行わなければならない状況になってからは、確実な宣伝効果の得られない企業メセナは敬遠されるようになってきた。

 企業メセナの研究者は、企業は社会によって育てられているものだから、社会に還元しなければならないという理由で、バブル崩壊後の企業がまずメセナの予算を削減している動きを批判している。しかし、絶対に倒産しないといわれていた企業が相次いで倒産し、各企業とも、社員は給料が下がっただけでなく、日常の業務においても鉛筆一本、コピー用紙一枚まで節約するなど、血の滲むような思いでリストラ策を受け入れて働いているなかで、確実な宣伝広告効果の得られない支出が抑えられるのは当然である。

 バブル時代にもてはやされた議論で、ジョンソン・エンド・ジョンソンが、

?@ 全ての消費者に対する責任。
?A 世界中で働く会社員に対する責任。
?B 地域社会さらには全世界の共同社会に対する責任。
?C 株主に対する責任。

 を挙げたことや、資生堂が、
?@ お客様とともに
?A 取引先とともに
?B 株主とともに
?C 社員とともに
?D 社会とともに

 を挙げたことが優良企業の企業理念の代表として示されていた。このなかで、見返りを期待しない社会に対する還元を企業理念に謳ったことが評価されていた。しかし、一代でエンターテイメント業界、航空業界にその名を轟かせることに成功したヴァージングループのリチャード・ブランソン会長は、昨年出版された著書の中で、まず、お客様への還元、次に社員への還元、最後に、社会(株主)への還元と、順番をつけている。彼は、いくら社会に貢献しても、社員が喜びを持って仕事に向かわなければ業績は絶対に向上することはなく、業績が悪化すれば、結局社会への貢献は不可能になるとの持論を展開している。

 英国にはアメリカに次いで歴史の深い企業メセナの組織、ABSA(芸術支援企業協議会)がある。ABSAの特徴として、今後の企業メセナの方針として、企業が見返りを全く期待しないメセナの形態であるDonation(寄付)や、何らかの見返りは求めるが、営利性が稀薄なPatronage(後援)といった形態からよりマーケティング性の強いSponsorship(協賛)に傾斜した方針を明確に打ち出している。企業メセナの活性化を図るためには芸術が企業に確実な利益をもたらすことを理解してもらうことが必要だとABSAは強く主張しているのである。この方針は企業メセナがより持続的に芸術振興に貢献していくことを現実的に捉えている。
「文化、芸術的視点で国家のアイデンティティを再構築する」のが私の政経塾における研修テーマだが、これは更なる文化、芸術振興のために公的資金投入の必要性を主張する議論では決してない。往々にして文化、芸術分野は利潤追求ではないことを理由に公的補助を期待し、それが満足に得られない場合、企業協賛に頼っているのが現状だが、公的機関、および援助する企業側に文化、芸術的視点がないと、資金援助すべき芸術、援助するに足らない芸術の見分けがつかない。寧ろ私は文化、芸術分野に更なる自助努力を求める。現状、芸術家は何らかの見返りを期待して援助する企業協賛を極力嫌い、出来ることなら公的援助に頼ろうとする傾向がますます強くなっている。しかし、芸術に対する公的援助も今とは比較にならないくらい不充分だった時代にまだ「武者修業」中であった小澤征爾はヨーロッパ各地で行われる指揮者コンクールに参加する資金が足りず、自ら各企業をしらみつぶしに廻って援助を求めた。結局富士重工と契約し、最新型スクーターの無償貸与を受け、それに日の丸の旗を立てて宣伝しながらヨーロッパ各地のコンクールに出向いた。そのエネルギーこそが、世界に通用する芸術を生む原動力となるのである。黙っていたら金が落ちてくる状態は芸術家を堕落させ、ひいては芸術振興に反する。