2005年08月22日 2005年CSR「力」総合ランキング

先生からのコメント…
「情報としては大事だが、主観なのか客観なのか見極めなければならない。ニュアンス的につかむのが研究する際には大事。たくさん参考文献としてあげることが大切。どのように自分の論文に関連させていくか。」

とりあえず一部引用↓

IR(投資家向け広報)という言葉が過去10年ぐらいの間に日本ですっかり定着したように、CSR(企業の社会的責任)もここ1〜2年で急速に日本企業に浸透してきた。しかし、その意味するところは幅広い。「社会の要請に応えるためのコスト」と捉える人もいれば、「企業が持続的な発展を遂げるための戦略的ツール」と見る人もいる。

 1990年代にブームとなったフィランソロピー(社会貢献)やメセナ(芸術文化支援)をCSRに含めるかどうかでも、意見は分かれる。

「長期の危機管理」の視点で

 本誌は今回、新日本監査法人コンサルティング部門である新日本インテグリティアシュアランスの大久保和孝常務らが主張する「CSRとは長期のリスクマネジメントである」という視点に立った。第1章で不祥事を防ぐ「コンプライアンス」、緊急時の「事業継続マネジメント」、対話に基づく「ステークホルダー・エンゲージメント(利害関係者との協働)」「障害者雇用などのダイバーシティー(多様性)」の観点から取り上げたのもそのためだ。

 法令を守り、メーンバンクや大株主と監督官庁の意向さえ見誤らなければ企業が安泰だった時代は過ぎ去った。

 社会貢献においても、単なる寄付ではなく、事業を通じた社会貢献が求められつつある。この言葉は「ユニバーサルデザイン」などを連想させるが、本来、事業を通じた社会貢献の第一とは、納税や雇用の拡大であろう。

 こうしたことを踏まえて、本誌は昨年の「CSRランキングベスト100社」を修正する形で、今年の総合ランキングを算出した。英サステナビリティ社のジョン・エルキントン氏が提唱したとされる「環境、社会、経済のトリプルボトムライン(3要素)」の考え方は踏襲しつつ、評価項目を昨年から若干変更した。「コーポレートガバナンス企業統治)」と「税金と雇用の貢献度」を新たに評価対象に加える一方、機関投資家と消費者から見た「尊敬できる会社」という、人気投票の色彩の濃い定性評価を取りやめた。

 配点も「業績及び財務」の比重を昨年の40%から30%に下げる一方、アンケートに基づく「CSRへの取り組み度」を20%から30%へ、「CSRリポートの充実度」を10%から20%へ、それぞれ引き上げた。

 その結果、昨年の上位10社のうち、今年も10位以内に入ったのはシャープやデンソーなど5社にとどまった。昨年首位のキヤノンは7位に、2位だったトヨタ自動車は21位に後退した。逆に昨年64位だった日立化成工業が4位、97位だった東芝は9位と、いずれも大幅に順位を上げた。

 2005年の総合ランキング首位は、昨年6位だったシャープ。CSRへの取り組み度で5位、CSRリポートの充実度で7位となったほか、社運を賭けた液晶テレビの好調を背景に、業績・財務など他の評価項目でも安定した得点をマークした(47ページに町田勝彦社長のインタビューを掲載)。

 製造業の多くが中国などアジアへ生産拠点を移す中、シャープはあえて三重県亀山市に液晶工場を建設、取引先を含めて地域の雇用創出に貢献した点も評価できる。減少基調にあった三重県の人口は今年、増勢に転じている。

 昨年10位のデンソーもシャープ同様、バランスよく得点して2位にランクを上げた。CSRリポートの充実度と税金と雇用の貢献度は、いずれも東証1、2部上場企業中3位で、シャープをしのいだ。

3位富士写は「モラル」と定義

 3位に入った富士写真フイルム古森重隆社長は「CSRはモラル(道徳)であり必要なコストだ」と割り切る。CSRを「将来の企業価値を向上させるための投資」と位置づける向きが増える中でも、「結果的にペイするかもしれないが、それは狙わない」(古森社長)という。40年以上前、カラーフィルムに問題が発生した時に、いち早く回収と廃棄処分を決めたことが、消費者の信頼獲得につながった。当時シェア1位だったコニカを逆転したことが、同社のCSRの原点になっている。

 指標の制約から、昨年に続いて別途ランキングした金融機関は、三井住友海上火災保険が保険部門、日興コーディアルグループが証券部門、住友信託銀行が銀行部門、オリックスがその他金融部門でそれぞれ1位に輝いた。

 リスクマネジメントの観点に絞れば、三井住友海上は1998年からPL(製造物賠償責任)保険にグローバルスタンダード割引を導入している。これは企業が国際標準化機構(ISO)の9000シリーズやハサップ(HACCP=危険度分析による衛生管理)といった国際基準の認証を取得していれば、保険料を最大30%割り引くというものだ。体制の整った企業の方がリスクは低いからこそ、高い割引が成り立つ。

 住友信託も太陽光発電を備えるなど環境配慮型住宅への融資は、店頭金利より1〜1.8%優遇するサービスを昨年始めた。同行では「太陽光発電を取り入れる人は経済的にもレベルが高く、貸し倒れは相対的に低いはず」(金井司CSR担当部長)と踏んでいる。

「取り組み」で松下連続首位

 評価項目を個別に見ると、CSR

取り組み度は松下電器産業(総合8位)が2年連続でトップとなった。38ページでも見たような創業時からの明確な企業理念に加えて、CSR を推進するための手厚い体制が高い得点につながった。全世界33万人の従業員に松下イズムとCSRの必要性を浸透させるため、行動基準を世界21カ国語に翻訳。さらに管理職から順次研修を行っていくという地道な作業を進める。

 今回、取り組み度を評価するに当たっては、英国のNPOであるビジネス・イン・ザ・コミュニティー(BITC)が開発した「CRI(企業責任インデックス)」を利用させてもらった。これはもともと、企業自らがCSRの取り組みの進捗度を測るとともに課題を特定し、パフォーマンスの改善に役立てるためのマネジメントツール。日本でも今年から、NPOの企業社会責任フォーラムが普及に乗り出している。

 日本企業にはなじみのない質問も多いことから、編集部には少なからぬ企業から「難しい」との“苦情”が寄せられた。事実、「環境問題や社会問題を考慮して資材等の調達をしているか」との設問では、過半数の企業で十分な体制が整っていないことが判明した。

 下請けを含むサプライチェーン(取引先)の人権問題や職場の多様性についても、多くの企業で十分意識されていなかった。さらに、職場の安全衛生を確保するための仕組みも、欧米の基準とはズレが生じていた。情報公開度でも不十分なケースが散見された。

 新日本インテグリティアシュアランスの大久保常務は「日本企業の多くでCSRはまだスローガンにとどまっている。体系的な仕組みができておらず、文書化もされていない」ことを、こうした原因の1つに指摘する。

リポート充実度はヨーカ堂

 CSRリポートは評価対象が昨年の172社から298社へと大きく増えた。評価ポイントは「CSRに関する方針を従業員に浸透させるための取り組み内容が記載されているか」「ステークホルダーとのコミュニケーション結果が報告されているか」など50項目について、新日本監査法人グループの協力を得て評価した。分量も「読み手の負担を考慮して60ページ程度に収まっているかどうか」で得点を変えた。

 リポート充実度のトップは昨年に続きイトーヨーカ堂(総合16位)。同社の「企業の社会的責任報告書」は「食品の品質管理やお客様の声の運用において、結果だけでなくプロセスも記載されている」(新日本監査法人)ことなどが高い評価につながった。

 今回新しく採用したコーポレートガバナンスは、日本経済新聞社の「コーポレートガバナンス評価システム(NEEDS−Cges)」に基づく評価だ。経営の監督体制や株主への利益還元、情報開示などについて定量評価したもので、いわば「株主から見て良い会社」を見つける手がかりとなる。

 1位は企業統治を経営の最重要事項と位置づけるHOYA。委員会等設置会社で社外取締役過半数を占める。8つのカテゴリーのうち資本効率、株式市場価値、株主・資本構成、取締役会(組織)、株主還元、情報開示の6つで満点だった。

 「米国流の統治をしていて、収益などの成果に表れている企業が上位にきやすい」(日本経済新聞社電子メディア局の加藤岳彦データ事業部企画担当次長)という側面はあるものの、ニッセイ基礎研究所の新田敬祐副主任研究員は、「NEEDS−Cgesの結果とブランド価値には有意な正の相関が見いだせる」と分析する。

 「企業性悪説」が支配的な欧米では、NGONPOが企業を監視し、様々な形で圧力をかける例は枚挙にいとまがない。有名なところでは、95年に英蘭系のロイヤル・ダッチ・シェルが北海沖で耐用年数の切れた石油貯蔵施設(ブレントスパー)を深海に投棄しようとしたことに対し、オランダに本拠を置くNGOグリーンピースが反発。不買キャンペーンを繰り広げてシェルに大きな打撃を与えた。

 97年には米スポーツ用品ナイキがベトナムなどの東南アジアで児童労働や強制労働をさせていたことが露見。米国のNGOや学生グループから不買運動を起こされ、窮地に立たされた。ナイキに限らず、欧米の企業はNGONPOに鍛えられ、多様なステークホルダーの要請に応えることで、社会的責任を果たそうと模索している。

 日本では、大企業の行動に大きな影響を及ぼすほどのNPONGOは、まだほとんど育っていない。外部のステークホルダーから口出しされることを経営トップが好まない土壌もあり、CSRは「社会が抱えている課題に応えること」という受け身の解釈がなされ、自社の問題という意識は低い。

 だが、ここにきて大企業の不祥事や事故が相次ぎ、信頼は大きく揺らいでいる。不祥事をゼロにすることは無理でも、限りなく減らし、いざ起きた時には素早く適切に対応することでダメージを最小限にとどめることが、かつてないほど重要になっている。

経営への介入は常態化する

 顧客や株主からNGONPOに至るまで、ステークホルダーによる経営への“介入”は今後、さらに本格化する可能性が高い。トヨタソニー株主総会で、役員報酬退職慰労金の個別開示を求め続けている株主オンブズマン森岡代表は言う。「一般の株主は受け身だが、外から働きかければ、それなりの確率で賛成してくれる」。

 実際、株主オンブズマンの提案に賛成する株主は年々増えている。この流れが強まるのだとすれば、今のCSRブームも一過性では終わらない。

 ブームが終わらないことを示す、もう1つの動きがISOによる規格化だ。関係各国は2008年までにまとめるべく、現在協議を重ねている。オムロンの深田静夫顧問によると「ISO14000シリーズのような、手順や手続きを細かく定めたマネジメントシステムの構築にはせず、問題への対処法を複数提示し、企業が自分たちに合ったものを選ぶガイダンス文書方式になることがこのほど確認された」という。

 これまで見てきたように、「企業の社会的責任」とは一律で語れるものではなく、時代とともにルールは変わる。だが、会社の置かれた状況を冷静に見つめ、法が求める以上の責任を自覚し、ステークホルダーと対話する力が今後一層求められることに変わりはない。